「経営・管理」ビザ、新規申請96%減の衝撃——2025年10月改正の要点と今後の対策を行政書士が解説

2026年5月、TBS NEWS DIGが「在留資格『経営・管理』の許可基準厳格化 新規申請は96%減」という衝撃的なニュースを報じました。2025年10月の制度改正以降、新規申請が激減しているという内容です。

この記事では、在留資格「経営・管理」(以下、経営・管理ビザ)に何が起こっているのか、今回の改正のポイント、そして既にビザをお持ちの方やこれから取得を考えている方がどう備えるべきかを、行政書士・外国人雇用労務士の視点から分かりやすく解説します。

目次

何が変わったのか — 2025年10月施行の改正内容

今回の大きな変更は、2025年10月に施行された「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令等の一部を改正する省令」(通称:上陸基準省令の改正)によるものです。

具体的に何が変わったのか、新旧の基準を比較してみましょう。

項目旧基準(2025年10月15日まで)新基準(2025年10月16日以降)
資本金/出資総額500万円以上 または 常勤職員2名以上3,000万円以上 かつ 常勤職員1名以上
常勤職員2名以上 または 資本金500万円以上日本に居住する常勤職員1名以上を必須雇用
日本語能力規定なし申請者または常勤職員が日本語能力試験(JLPT)N2相当以上
経歴規定なし博士・修士号等 または 事業経営3年以上の実務経験
事業計画書任意中小企業診断士・公認会計士・税理士などの専門家による評価が義務化

(出典: 出入国在留管理庁)

特に重要な変更点は以下の通りです。

  • 資本金の大幅な引き上げ: 500万円から3,000万円へと6倍に引き上げられました。
  • 常勤職員の雇用義務化: 資本金の額に関わらず、日本に住む常勤職員を1名以上雇用することが必須となりました。
  • 日本語能力の明確化: 申請者本人か、雇用する常勤職員のどちらかがJLPT N2レベル以上の日本語能力を持つことが求められます。
  • 経営経験の要求: 博士号などの高い学歴がない場合、3年以上の事業経営経験が必要になりました。
  • 事業計画書の客観的評価: 事業の実現可能性を、中小企業診断士や税理士などの専門家が評価した書類の提出が義務付けられました。

これまでの基準が「または」で選択可能だったのに対し、新基準では多くの要件が「かつ」で結ばれ、すべてを満たす必要がある非常に厳しいものになったことが分かります。

数字が示す厳格化の影響(月平均1,700件→70件)

今回の基準厳格化の影響は、申請件数に如実に表れています。TBS NEWS DIGの報道によると、具体的な数字は以下の通りです。

  • 厳格化前(5か月間): 新規申請は1か月平均 約1,700件
  • 厳格化後(2025年10月〜2026年3月): 新規申請は1か月平均 約70件

これは、新規申請が約96%も減少したことを意味します。この数字だけでも、今回の改正がいかに大きなインパクトを与えたかがお分かりいただけるでしょう。

法務省関係者によれば、厳格化後に許可されているのは「上場企業の役員クラスの人物が多い」と報じられており、小規模な事業での新規取得は極めて困難になったと考えられます。

なぜ厳格化されたのか(背景)

なぜ、これほどまでに基準が厳しくなったのでしょうか。その背景には、経営・管理ビザの不正利用の問題があったとされています。

一部で、実態のないペーパーカンパニーを設立し、事業を行う意思がないにもかかわらず在留資格を取得するための手段として悪用されるケースが指摘されていました。今回の改正は、こうした不正な利用を防ぎ、日本で本格的に事業を行い、経済に貢献する意思と能力のある経営者を確実に受け入れることを目的としています。

実際、日本の新しい資本金要件3,000万円は、諸外国と比較しても突出して高いわけではありません。

  • 韓国: 3億ウォン(約3,200万円)
  • 米国(E-2投資家ビザ): 一般的に10万〜20万ドル(約1,500万〜3,000万円)

(出典: 日本経済新聞)

今回の改正は、日本の投資家ビザを国際的な基準に合わせたもの、と捉えることもできるでしょう。

既存の経営・管理ビザ保有者への影響 — 3年経過措置の意味

「すでに経営・管理ビザで日本にいる自分は、すぐに帰国しなければならないのか?」と不安に感じている方も多いかもしれません。

ご安心ください。すぐに影響が出るわけではありません。今回の改正では、既存のビザ保有者に対して3年間の経過措置が設けられています。

  • 経過措置の期間: 施行日(2025年10月16日)から令和10年(2028年)10月16日までの3年間。
  • 期間中の更新審査: この期間中の在留期間更新は、直ちに新基準が適用されるわけではありません。ただし、出入国在留管理庁は「経営状況や改正後の基準に適合する見込み等を踏まえて許否を判断する」としています。(出典: 出入国在留管理庁)

これはつまり、「3年後までに新基準を満たす準備をしてください」というメッセージです。経過措置期間中であっても、事業が赤字続きであったり、新基準を満たす見込みが全く立たなかったりする場合には、更新が不許可となる可能性も十分に考えられます。

決して楽観視せず、この3年間を新基準への移行期間と捉え、計画的に準備を進めることが極めて重要です。

影響を受けやすいケースと検討すべき代替策

今回の改正で特に大きな影響を受けるのは、これまで500万円の資本金で事業を立ち上げてきた小規模なビジネスオーナーの方々です。

  • インド・ネパール料理店、中華料理店などの小規模飲食店オーナー
  • 中古車輸出業や雑貨貿易などを個人事業に近い形で営む方
  • 小規模なITコンサルティングやWeb制作会社を経営する方

これらの事業形態では、資本金を3,000万円に増資し、さらに常勤職員を雇用し続けることは、経営的に大きな負担となる可能性があります。

もし、経過措置期間中に新基準を満たすことが難しいと判断した場合、他の在留資格への変更も視野に入れる必要があります。

代替となる可能性のある在留資格

  1. 「技術・人文知識・国際業務」ビザ — 大学で学んだ専門知識や実務経験を活かした職務(例:通訳、マーケティング、エンジニアなど)に就く場合、このビザへの変更が考えられます。ただし、自らが経営者ではなく、従業員として雇用されることが前提となります。
  2. 「特定技能」ビザ — 特に飲食店を経営されている方の場合、「外食業」分野での特定技能ビザへの変更が選択肢になるかもしれません。この場合も、ご自身が経営者ではなく、現場で働く労働者としての立場になります。
  3. 「高度専門職」ビザ — 学歴、職歴、年収などをポイント換算し、一定基準を満たす優秀な人材に与えられるビザです。経営者としての活動も可能ですが、非常に高い要件が設定されています。

どの在留資格が適しているかは、個人の学歴、職歴、事業内容、そして今後のキャリアプランによって大きく異なります。個別の状況については、必ず専門家にご相談ください。

今からできる備え

では、これから何をすべきでしょうか。状況別にやるべきことを整理しました。

1. 既に経営・管理ビザをお持ちの方

経過措置の3年間は、決して長くありません。今すぐ行動を開始しましょう。

  • 事業計画の見直し: 3年後までに資本金を3,000万円に増資できるか、具体的な計画を立てます。融資や追加出資の可能性を探りましょう。
  • 人材の確保と育成: 日本に住む常勤職員の雇用計画を立てます。既に雇用している場合は、その方の日本語能力(JLPT N2相当)を確認し、必要であれば資格取得をサポートします。
  • 自身の日本語能力向上: もしご自身の日本語能力がN2に満たない場合、日本語学校に通うなどして資格取得を目指しましょう。
  • 専門家への相談: 税理士や行政書士に相談し、増資計画や事業計画の客観的な評価を受ける準備を進めます。

2. これから日本での起業を検討している方

新規での経営・管理ビザ取得は、非常にハードルが高くなりました。以前のような感覚で準備を進めることはできません。

  • 十分な資金調達: 最低でも3,000万円の資本金に加え、事務所家賃や人件費などの運転資金を十分に用意する必要があります。
  • 事業計画の練り込み: 中小企業診断士などの専門家から「実現可能性が高い」と評価される、具体的で説得力のある事業計画書を作成することが不可欠です。
  • 人材の確保: 創業メンバーとして、日本在住で日本語能力の高い常勤職員を確保する目処を立てておく必要があります。
  • 他の在留資格の検討: まずは「技術・人文知識・国際業務」などで日本の企業に就職し、実務経験と人脈、資金を蓄えてから起業を目指す、というステップを踏むことも有効な戦略です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的なアドバイスを構成するものではありません。個別の状況については、必ず専門家にご相談ください。

まとめ

今回の経営・管理ビザの厳格化は、日本の外国人経営者の受け入れ方針が大きく転換したことを示すものです。安易な形での起業は事実上不可能となり、十分な資金力と明確な事業計画、そして日本経済への貢献意欲を持つ、本格的な経営者のみが対象となりました。

  • 資本金が500万円→3,000万円(6倍)
  • 常勤職員雇用・日本語能力・経営経験・専門家評価がすべて必須に
  • 新規申請は月平均1,700件→70件に激減(96%減)
  • 既存保有者には3年間(2028年10月16日まで)の経過措置

既にビザをお持ちの方は、3年間の経過措置を有効に活用し、新基準への対応を計画的に進めてください。これから起業を目指す方は、求められる基準の高さを十分に理解し、入念な準備を行う必要があります。


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参考資料

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