2026年3月、出入国在留管理庁は特定技能「外食業分野」における新規の受け入れを原則として停止すると発表しました。このニュースは、人手不足に悩む多くの外食事業者様にとって、大きな衝撃だったのではないでしょうか。既に特定技能外国人材を雇用している企業はもちろん、これから採用を検討していた企業にとっても、今後の事業計画に直接関わる重要な出来事です。
なぜ、人気の高かった外食業分野の受け入れが止まってしまったのでしょうか。そして、この状況を受けて企業は何をすべきなのでしょうか。本コラムでは、行政書士・外国人雇用労務士の視点から、今回の受け入れ停止の背景と実務的な影響、そして事業者が今から取り組むべきことについて、専門的かつ分かりやすく解説します。
何が起きたのか?外食業分野の新規受け入れ停止を整理
まずは、今回発表された内容の要点を正確に把握することが重要です。事実関係を整理してみましょう。
- 発表日: 2026年3月27日
- 発表元: 出入国在留管理庁および農林水産省
- 内容: 在留資格「特定技能1号」の「外食業分野」について、新規の受け入れを原則として停止する。
- 背景: 分野ごとに設定されている「受け入れ上限数」に達する見込みとなったため。
報道によると、2026年4月13日以降の申請からこの措置が適用されるとされています。これにより、海外から新たに外食業分野の特定技能人材を呼び寄せたり、留学生などが国内で特定技能「外食業」に在留資格を変更したりすることが、原則としてできなくなりました。
なぜ受け入れが止まったのか?特定技能制度の「上限」とは
今回の受け入れ停止を理解する上で鍵となるのが、特定技能制度に設けられている「受け入れ見込み数(事実上の上限)」という仕組みです。
特定技能制度は、深刻な人手不足に対応するため2019年4月に創設されましたが、無制限に外国人材を受け入れる制度ではありません。国内の雇用情勢への影響などを考慮し、分野ごとに5年間で受け入れる人数の上限が定められています。
外食業分野では、2024年度から2028年度末までの5年間で5万人という上限が設定されていました。出入国在留管理庁の公表によると、2026年2月末時点の速報値で特定技能「外食業」の在留者数は約4万6000人に達しており、5月頃には上限の5万人に到達する見込みであるとされていました。
この上限到達が、今回の新規受け入れ停止の直接的な理由です。外食業は特定技能の中でも特に人気が高く、多くの外国人材と企業に選ばれてきた結果、他の分野に先駆けて上限に達したと考えられます。
「受け入れ停止」で何ができなくなり、何が継続できるのか
「受け入れ停止」と聞くと、全ての活動が止まってしまうように聞こえるかもしれませんが、影響が及ぶ範囲は限定されています。事業者様が最も気になる実務的なポイントについて、「停止されること」と「継続できること」に分けて整理します。
■ 停止されること(原則として不許可・不交付)
今回の措置により、以下の手続きは原則として認められないと報じられています。
- 海外からの新規入国: 海外にいる外国人を特定技能「外食業」で新たに雇用するための「在留資格認定証明書」の交付申請が、原則不交付になるとされています。
- 国内での資格変更: 留学生や技能実習生(外食業以外の職種)などが、日本国内で特定技能「外食業」へ在留資格を変更するための申請が、原則不許可になるとされています。
- 移行準備への変更: 他の在留資格から特定技能への移行準備を目的とする「特定活動」への変更申請も、原則不許可になると報じられています。
ある報道では、この発表により、卒業後に特定技能1号の取得を予定していた留学生32人が、その取得を断念したケースも伝えられています。
■ 継続できること
一方で、以下の手続きは引き続き可能です。現在雇用している従業員の方々には直接的な影響は少ないと言えます。
- 在留期間の更新: 既に特定技能「外食業」で働いている方の在留期間更新は、これまで通り申請できます。
- 同分野内での転職: 特定技能「外食業」の資格を持つ方が、同じ外食業分野の別の会社へ転職することは可能です。
なお、技能実習を良好に修了した方が試験免除で特定技能1号へ移行するルートについては、移行先の分野が技能実習の職種に対応している必要があります。食品関連の技能実習(飲食料品製造業など)から移行できるのは原則として特定技能「飲食料品製造業」分野であり、「外食業」分野には対応する技能実習の職種が基本的に存在しません。そのため、外食業分野では技能実習からの移行ルートは限定的である点にご注意ください。外食業で特定技能1号を取得する一般的なルートは、外食業特定技能1号技能測定試験と日本語試験への合格となります。
外国人を雇用する企業への影響
今回の受け入れ停止は、外国人材を雇用する企業、特に外食事業者様に大きな影響を与えます。
まず、特定技能での新規採用が困難になったことで、採用計画の大幅な見直しが迫られます。特に、これまで留学生アルバイトを卒業後に特定技能で正社員登用してきた企業にとっては、重要な採用ルートが一つ絶たれたことになります。
報道によれば、この影響は「二極化」しているとされています。大手外食チェーンのように、上限到達を予見し、他の採用戦略を並行して進めていた企業は「短期的な影響は少ない」としています。一方で、特定技能に採用の多くを依存していた中小規模の事業者様にとっては、より深刻な課題となる可能性があります。
この状況は、外国人材活用の視点を「いかに採用するか」から「今いる人材にいかに長く活躍してもらうか(定着・育成)」へとシフトさせる契機になると考えられます。従業員の処遇改善やキャリアパスの明確化、特定技能2号への移行支援(外食業は2号の対象分野です)など、長期的な視点での人材戦略がこれまで以上に重要になるでしょう。
外国人本人・留学生への影響
今回の措置は、日本で働くことを目指す外国人の方々にも影響を及ぼします。
特に、外食業での就職を目指して日本語学校や専門学校で学んできた留学生にとっては、キャリアプランの再考を迫られる厳しい状況です。アルバイト先で正社員になることを夢見ていたにもかかわらず、制度上の理由でその道が閉ざされてしまう可能性があります。
今後は、特定技能の他の分野(宿泊、飲食料品製造など)への変更を検討するか、あるいは大学等で学んだ専門性を活かせる「技術・人文知識・国際業務」といった別の就労ビザ取得を目指すなど、柔軟なキャリアチェンジが求められることになるでしょう。
制度全体の大きな流れ:特定技能は拡大、育成就労も開始へ
外食業分野で受け入れが停止された一方で、特定技能制度全体、そして日本の外国人材受け入れ政策は、拡大の方向へ進んでいます。この大きな流れを理解しておくことも重要です。
- 特定技能の全体的な拡大: 2024年3月の閣議決定により、特定技能全体の受け入れ見込み数は、2024年度からの5年間で82万人と、従来の2倍以上に引き上げられました。また、「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野が新たに追加され、人手不足が深刻な他業種にも門戸が広がっています。
- 「育成就労制度」の創設: 2027年4月1日からは、現在の技能実習制度に代わり、「育成就労制度」が施行されます。この新制度は、これまでの「国際貢献」という目的から「人材育成と人材確保」を正面に掲げたものに変わります。原則3年間の就労を通じて特定技能1号の水準まで人材を育成し、本人意向による転籍(転職)も一定の要件下で可能になるなど、より労働者側の権利に配慮した仕組みへと転換します。
つまり、外食業の一時的な停止はありつつも、国全体としては外国人材の受け入れを推進し、より良い労働環境を整備していくという大きな方向性は変わっていません。
事業者がいま取り組んでおきたいこと
今回の事態を受け、外食業をはじめとする外国人材を雇用する事業者様は、以下の点に早急に取り組むことをお勧めします。
- 採用計画の再構築:特定技能「外食業」に依存しない、多角的な採用チャネルを検討する(例:他の在留資格を持つ方の採用、2027年4月に施行される育成就労制度の活用)。外食業分野では技能実習からの移行ルートが限定的なため、自社が必要とする業務に対応する在留資格・採用ルートを改めて整理する。
- 既存従業員の定着支援と育成:現在雇用している特定技能人材が安心して長く働けるよう、労働環境や待遇の改善、キャリア相談などのサポート体制を強化する。外食業分野は特定技能2号の対象です。在留期間に上限がなく、家族帯同も可能になる2号へのステップアップを支援し、長期的な戦力として育成する。
- 最新情報の継続的な収集:出入国在留管理庁や関連省庁のウェブサイトで、制度改正に関する最新情報を常に確認する。自社の状況に合わせた最適な対応策を検討するため、専門家のアドバイスを活用する。
まとめ
特定技能「外食業分野」の新規受け入れ停止は、多くの事業者様にとって厳しい知らせですが、これは特定技能制度が次のフェーズに入ったことを示す出来事でもあります。これからは、単に人手を確保するだけでなく、外国人材一人ひとりと向き合い、育成し、共に成長していくという姿勢がより一層求められます。
制度は常に変化しており、自社だけで全ての情報を追いかけ、最適な判断を下すのは容易ではありません。個別の状況によって取りうる対策は異なりますので、具体的な手続きや今後の戦略については、ぜひ専門家にご相談ください。
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参考資料
- 日経ビジネス: 特定技能受け入れ停止 すかいらーく「短期的に影響なし」も人材定着を促進 — https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00636/050100086/
- 出入国在留管理庁: 特定技能制度 — https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/index.html
- 出入国在留管理庁: 特定技能の受入れ見込み数の再設定等について(令和6年3月29日閣議決定)— https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/2024.03.29.kakugikettei.html
- 出入国在留管理庁: 育成就労制度について(Q&A)— https://www.moj.go.jp/isa/applications/faq/ikusei_qa_00002.html

